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「は、ぃ」
引っ込んだはずの涙が、その熱さに触れて再び零れ出そうになる。
じんわりと涙の滲む目で補佐を見上げると、フイと顔を逸らされた。
「仕事、するか」
するりと肩から手を離すと、私の隣でスッと立ち上がる。
もう慰める時間は終わり……って、そう言われていることが分かったけれど、すぐに私はその時間から離れたくない。
二人だけのこの時間が名残惜しい、なんてほんの少し甘えた気持ちが沸き起こる。
けれど、それにいつまでも甘んじるわけにもいかず、私も隣で勢いよくぴょんと立ち上がった。
補佐なりの、上司なりの精一杯の慰め――だったんだよね?
隣に立つ上司がいつもよりまた一段と大きく見えることにドキリとしながら、私はじっとその横顔を見つめた。
けれど私のその視線に気づくことなく、補佐はスタスタと前を歩く。それに黙って後ろをついて歩くと、資料庫を出ようと扉に手をかけたその時に、突然くるりと私の方を振りかえってジッと見下ろされた。
じっと射抜くように見つめられて、今までに感じたことないドキドキが沸き起こる。
そのことに自分で焦っていると、そんな私に構わず補佐は尋ねてきた。
「お前、口固いよな?」
「口、ですか?」
ドキドキしていたのがばれていないかと冷や冷やしながら、慌てて返事をする。
それでもじーっと見つめられると、落ち着かなくてもじもじと動きそうな指先で口元をパッと隠した。そのまま見上げると、私の瞳と視線が重なったのに逸らされる。
――え?
って思っていたら、また後頭部を掻きながら補佐は言った。
「俺は、江藤がココで泣いてたこと黙ってやる。だから、俺が秘密にしてた8年彼女いないってことも内緒にしろよ?」
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