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穏やかな日が続いていた。
新人研修が終わった後、次は監査対応の準備を……とかいろいろな行事が起こり続け、引き続き係長と主任はペアで別の仕事を優先していたために、私もまた引き続き補佐の手となり足となり働いていた。
そうすれば人間慣れというものも起きる。
いつの間にやら補佐のことならお任せとでも言ってしまいたいほどの阿吽の呼吸を身に着けていた。
「江藤、あれは……」
「あれはですね――」
こんな感じで‘あれ’だけで、話が出来るようになっていたりする。
その光景を隣の庶務課の人がよく驚いて見ている。というのも、永友補佐は仕事がビックリするくらい早いせいか、他の人への指示も多くて、どんどん仕事を課していくから、総務課一員は愚か補佐と仕事で関わる他部署の人もてんてこ舞いなのだ。
総務に配属される人はそこそこベテランが多い上(何せ何でも係だから、知識や経験を求められること多い)、定時に上がりやすいことから子持ちの人も多数。私以外の女性は皆既婚者ということもあって、時間外に及びそうな仕事は全て私に回ってきている気がしなくもない。
その状況下で、補佐の一言で全てをキャッチできるようになってきた私を見て、まことしやかに妙なあだ名がつけられている。
会社妻という、恐るべきネーミングが。
「萌優ちゃん、すっかり嫁だよね」
なんて冗談みたいな挨拶をされるたび、私はぶんぶん顔も手も横に振って、その奇妙なポジションを囁かれていることが補佐に悟られていないかと冷や冷やしていた。
だって勘違いされても困るし、私だってそんなつもりはない。
上司として尊敬できる人だってことは仕事を始めてすぐに感じたけれど、こと異性としては全く意識もしていなかった。
でもそれは、あの日までのことだったけれど――
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