承:始まる恋

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 きっかけは一本の電話だった。  総務課は代表電話だから、様々な人から電話がかかってくる。その『様々』の内、当て嵌まる一つがクレームだ。  「はい、篠崎商事株式会社総務課でございます」  いつも通りの丁寧な言葉送りで、ゆったりと電話に出た。忙しさを見せないのも大事なことらしい。  しかしそんな私の配慮なんてミジンコほども受け取ってもらえなかった様で、電話口に居る相手はすごい剣幕で捲し立ててきた。  『あんたとこの商品のだけど。こんなもん送ってきてどうする気なんだよ!』  耳がキーンと飛んでしまいそうなほどの叫び声。  一瞬何が起きたのかと眉を潜めてしまい、余りのことに咄嗟に受話器を耳から少し離してしまった。  「お客様、申し訳ありませんがどの商品の件でしょうか」  2秒ほどおいてから落ち着きを取り戻した私は、再度耳に電話を当てると、先ほどと同じように『丁寧』を心がけて質問をする。相手がブチ切れていても、ゆっくりと丁寧に対応を続けることで相手も冷静になり落ち着きを取り戻してくれることも多い。  だから、こちらから丁寧な姿勢を崩しちゃ駄目って先輩たちから口酸っぱく言われている。  けれど今日の相手はどうにも違うようだ。  「あぁ!? そんなことも分かんねーのかよ。あったま悪いなぁお前」  私の丁寧さなんて本当に伝わっていないのだろうか? 流石の私も突然頭悪いなんて言われて、イラッときてしまう。でも、めげずに聞くしかない。  総務は初期対応の場所だから。ここから他に繋いで話を解決しなければいけないのに、ココで妙に躓いてしまうわけにはいかない。昔は居た電話交換の人がこんな時いて欲しいって思うけれど……経費削減の世の中、そんな甘いこと言ってられないよね。  そんなことを思いながらぐっと受話器を持つ手に力を込めると、さっきと変わらぬ勢いで相手はまた捲し立ててきた。
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