承:始まる恋

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 「大変申し訳ございません。こちらの不手際でお客様には不愉快な思いをさせてしまいまして……」  そう言いながら、どうしようかって考えつつもりやんに振れば何とかしてくれるだろうって考えていた。少し前までは私が担当してきた仕事とはいえ、今は異動してしまって他部署の問題になっている。それに口を出すことは流石に憚られる。  そんなことをごちゃごちゃ考えていたら、相手が待ちきれずにさらに叫び、喚き始めた。  「適当なご挨拶はいいんだよ! こっちはめちゃくちゃイラッとしてんの。大体さあ? なんで俺がかけた電話って全部女に繋がるわけ? こういうことも女が対応するから悪いんじゃない? 男の人がやりゃあ問題なかったのによぉ。お前だって腰掛けで仕事してんだろ。そういうのってホント迷惑。っつーかさぁ、女にまともに仕事が務まるわけがねぇんだよ!」  激しい罵倒が始まった。  女、女、女。  男尊女卑が激しい人なのか、女性であるという一くくりだけで、激しく私を罵る。一体私が何をしたというのか。    今までにされたことのない酷過ぎる罵倒に怯んだ私は、この段階でさっさと話をぶった切ってでも電話を誰かに振れば良かったのに……あろうことか私は、それを上手に出来ずに相手の言葉を黙って聞き続けてしまった。   なぜかふと、言わせたいだけ言わせてあげようって思ってしまったのだ。きっとこの辺がキャリアの足りなさなんだろう。でも私なりに精一杯考えて、ただただ言い返すこともせずに相手の言葉を受け入れた。  真面目に聞くとこちらの神経もすり減るから、極力相手の言葉をまともに受け止めないようにして、どこか意識を別の所へ飛ばしながら、彼の言い分を静かに聞き続けた。  ところがその態度が、彼の罵倒に火をつけてしまったようだ。
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