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「お前、彼氏いないだろ?」
「え……」
一通りこちらの対応に不満をぶちまけ終えたらしい彼は、新手の話題に手を伸ばした。
しかし、この話題は商品とは一ミリの関連性が無い上に、一女性に対して余りにも失礼すぎる質問だって思う。
ようやく潮時と判断した私は、この電話をどうにか担当の営業部署に回すようにしようと頭が回り始める。
しかしそのタイミングはすでに遅く、私は次の彼の言葉で、心を深く傷つけられることになった。
「すみませんが、そういったお話は―――」
電話を切り上げる口上を述べる私。けれどそれに構わず相手は続ける。
「いや、言いたくないんだろ? 分かるよ。あんたみたいなの、どんな奴だって手ぇ出したくないと思うし。声聞いただけでそんぐらい俺分かっちゃうし。いないでしょ? 実際。
あーやだやだ。仕事してて忙しいから男が出来ないのは自分のせいじゃないとか思ってる女。そういうの見苦しいよな。そんで結局遊ばれちゃって傷ついたとか言ってまた彼氏出来ないパターン。これ最悪のエンドレスだよね。きゃはは。んじゃまぁ、そっちの商品には絶対手を出さないって決めたし。さよならー」
言いたいだけ言って、相手の男はブチッと電話を切った。
突然途絶えた通信にすぐに気づかず、最後の彼の言い分が胸にぐさりと刺さったのを感じながら、震えて受話器を落としてしまいそうな手をどうにか制御して受話器を置く。
そのまま背もたれに少し体重をかけてふー……と息を吐くと、ポロリと何かが瞳から零れそうになるのに気が付いて、慌てて手の甲で目を押さえた。
――こんなところで、泣くわけにいかない。
それだけはすぐに判断できた私は、ハンドタオルを片手に掴むと勢いよく立ち上がった。
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