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立ちあがってそのまま補佐のデスクに向かうと、一息吸ってから補佐に声を掛けた。
「補佐、すみません」
私の声に気が付くと、モニターから顔を上げて私の瞳をじっと見つめる。
こうやって顔を上げた時の補佐の目は、いつも何もかも見透かしているようでとても緊張する。今も……何かがばれるんじゃないかって怖くなりながら、きゅっと拳を作って握り込んだ。
「江藤、お前電話長かったみたいだけど大丈夫か?」
第一声。訝しげな声で眉間に少し皺を寄せてそう尋ねられた。やっぱり補佐の目は侮れない。
でもそんなことを今感じるよりも、一秒でも早くこの場から逃げ出したくて堪らなかった。
「大丈夫、です」
擦れた声になったけれど、簡潔にそれだけ返事をする。
そして一気にこちらの要望を早口で言った。
「あの、資料探したいので資料庫の鍵よろしいですか?」
「あ、……あぁ、いいけど」
私の申し出に何となく気後れした表情を浮かべながらも補佐は立ち上がって、隣にある保管庫を開けると資料庫の鍵を差し出してくれる。
スッと差し出された鍵を、ただ無言で受け取ると顔も見ないまま小さく頭を下げて私は総務課を飛び出した。
『資料庫まで、それまで我慢して私っ』
頭の中で自分に必死で言い聞かせながら、グッと唇を噛んで俯きがちに資料庫への道を最短で歩く。
1秒でも無駄にするか――と、そのくらいの勢いで歩を進めた。
総務課の資料しかないのに、なぜか総務課から遠い資料庫に着くと、荒々しくポケットから鍵を取り出してガチャリと開ける。
勢いよく中に体を滑らせると、もう耐え切れなくなって熱いものが目尻に溜まってくるのを感じた。
――もう、我慢しなくていい?
そう自分に問いかけた瞬間、緊張の糸がプツリと切れた。
「ふっ……ぅううっっ」
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