起:初めての恋

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 運命、って言葉はあんまり好きじゃない。  『人間は努力如何で、運命を手に出来るものよ』  なんて台詞を昔舞台で言ったことがあるせいか、運命とかそういうものを好きになれない。  いつだったか……一度行った合コンで、小学校が同じだったらしい男が同席していて「これって運命じゃね?」と言いながら迫ってきたので吐き気がしたほどだ。  だから私があの人に再会したことについても、私は運命だなんて陳腐な言葉を使いたくはない。  強いて言うならば、この再会は――とてつもない「偶然」だ。  ――――――   4月1日。  私の勤める会社では辞令を受けた多くの人間が異動する日に当たる。  といっても、私が辞令を受け取とるのは入社以来初めての事で…… 今、営業部長室前に並んでいるこの事態を、少し緊張の面持ちでやり過ごしていた。  「江藤萌優(エトウモユ)」  「はい」  部長室横で上から序列順に名前を呼び上げていた課長から、ようやく私の名前が呼ばれた。  「異動先でも、頑張りなさい。君の努力にこれからも期待しているよ」  「はいっ!」  努力、期待……  部長室に入り辞令を受け取った後、普段接することの少ない部長から一言が告げられた。言われて嬉しい言葉をさらりと伝えられ、ちょっと涙ぐみそうになる。  女だから、とかそういう偏見のない、純粋に人としての評価をして貰えたことに満足すぎて、入室前の緊張を見事に払拭して満面の笑みで部屋を出た。  『江藤萌優  異動前:営業補佐  異動後:総務課』  辞令の通知を見ながら、初めて貰ったそれに遅ればせながらドキドキした。
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