承:始まる恋

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 それでも過去に付き合った経験がなかった私は、彼の言うことを素直に受け止めて我慢した。  これが男女の付き合いなら、もう少し頑張ろうって思ったから。  お尻にまで上がってきた手が、まるで痴漢――って感じるのをギュッと目を瞑って耐えた。  それが辛い記憶しかない2回目のデート。  そして3回目は更にエスカレートして、彼との最後になった。  最初の誘い文句で気付くべきだったのに私はあまりにも馬鹿で、無知で。彼の呼び出しにただ喜んでしまった。  「ウチ来る?」という誘いに。  私にとって、彼氏の家に行くっていうのは凄く大人で素敵なイメージだった。  これぞ付き合ってます! みたいな。  私はこのとき、前回のデートで不快感を募らせている彼=現在の彼氏という構図をまだ受け止めきれていなくて、『彼氏の家に行く』というフレーズに脳内が踊らされてもいたし、これから私と彼の仲が深まっていくのかもしれないなんて馬鹿げた期待までしていた。  「行くっ」と即答した私を、今となっては叱りとばしたくて仕方ない。  当時の私は、今までと違う場所でのデートに期待しか抱いていなかった。それも甘い期待。  彼氏彼女っぽくギュって抱きしめられて、好きだよって言ってもらって……みたいな、そんなマンガみたいな展開。  あり得ないって自分で思ってたくせに、実際に彼氏が出来て、いつの間にか彼に変な期待をしていた。  それは私と彼との間で思い描くには、あまりにも無謀でありえない絵空事だってその時にはまだ気が付いていなかった。  彼の家に着いてから、今日親いないんだ……みたいなコトをぼそりと告げられ、警戒心を持つどころか緊張しなくて良かったって喜んだ私は心底バカすぎた。  だからその後起きたことは、今ならば当たり前に思い描けるほどの甘さとは程遠い最悪な展開だった。
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