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でもそのとき私は、彼からのキスが嫌ではなくて温かな気持ちで受け止めることが出来ていた。
だから思ったのだ、これから少しずつ彼との距離が縮めていけたらいいなって。
しかしそれも私の勝手で一方的な思いで、彼にはそんな情は一切なかった。
やたらとくっ付きたがる彼を突き放せず、私はその晩、そのまま彼とくっ付いて眠りについた。
そして翌朝目覚めて顔面蒼白になったのだ。
テーブルの上に『さよなら』とたった四文字が記されたメモ。
彼に渡していた家の合鍵。
それと引き換えたかのように無くなったのは『初めてのボーナスは、その重みを感じられるように』の一言と共に上司から受け取ったばかりの、初めてのボーナス。
もちろん、隣にいたはずの彼は居なかった。
初めての一度だけ現金でもらえるんだってって、ボーナスの話を彼に笑いながら話したのはいつだったか。
中身の確認もできないまま袋ごとすっくり無くなったそれを、鞄をひっくり返して探したけれどどこにも見つけることが出来ずに、私はただただ家の中で一人立ち尽くした。
そうして失って、私はやっと気づいた。
彼から好きだと言ってもらったことがなければ、自分から言うこともなかったんだって。
初めての時と同じことを私はまた繰り返したんだって、この時になってやっと気が付いた。
こうして2度の別れを経て、私は決意した。
もう誰とも付き合ったりしない。
騙されたり、辛い想いなんて、もう2度としたくない。
――だから、恋なんて永遠にしないって。
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