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こんな私だから、電話で見ず知らずの男が言った一つ一つの言葉が胸を抉る程の痛みとなってグサグサと刺さった。
嗚咽を必死に堪え、電気も点けずに蹲(うずくま)る。
誰にも言えずにただ耐えてきた辛い気持ちがいっぺんに吹き出してきて、自分でも止められないほどに涙が零れてしゃくりあげていた私は、背にした扉に寄りかかってなんとか座っていられるような状態を保っていた。
ここがどこだとか、今は就業時間中だとか、そんなことすら忘れそうになっていたけれど、そんな私を突如、現実に戻す音が響いた。
コンコン
背後の扉が小さな振動をして、背中を痺れさせる。それにハッとして顔を上げると、直後に声が聞こえてきた。
「江藤、いるか?」
……! 補佐!?
しゃくりあげるのはいきなり止められないし、流れる涙も一瞬では引っ込みそうにない。
現れるなんて思っていなかった補佐が扉越しに居るという緊急事態だけは理解できた私は、周りをきょろきょろと見回して、とりあえずこの顔だけは見せられない! って気持ちで立ち上がると、ハンドタオルで顔を強引に拭って資料庫の奥まで走った。
考えもなしに思い切りバタバタ音を立て、部屋の最も奥を目指す。
バタバタと足音を立てたら中に人がいるなんてことは冷静に考えれば分かるはずだけど、思考回路が乏しくなっている私は、息を殺してしゃくり上げるのを押さえようってそればかりに必死になっていた。
パチン
資料庫の奥にしゃがみ込んだ瞬間、点けることを忘れたままだった照明が点されて目が眩む。
暗闇に慣れていて、全く気付いていないだなんて自分に笑えてしまった。
けれど笑ってしまうわけにはいかない。
――見つかりませんように
ギュっと手を握り合わせて俯いた。
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