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怒られても、しょうがない。
覚悟を決めてギュッと目を瞑る。
けれど補佐は、私を叱責したりしなかった。
「言えよ、言われたこと。そしたらスッキリするだろ」
「――ッ」
言えない。
全ては私の恥ずかしい過去だ。
男を見る目がない、自分の恥ずかしい過去。
それを引き金にして泣いているなんて最悪なこの状況。
だから、何も言えるわけがない。
それなのに補佐はそんな私のことなんてお構いなく、どんどん私の心を崩していった。
「お前がそうやって黙ってコソコソ泣いて落ち込んで。それって仕事の効率悪いだろ? 俺の仕事のフォローは江藤がしてくれてるんだから。俺は江藤がまともに動けなかった困る。だから言え、全部聞いてやるから。それでスッキリして、いつもの江藤に戻ってくれよ」
どういうつもりなのか私には分からない。
ただの上司がそんなこと言うのが普通かどうかなんて、それも分からない。
でも、全部聞いてやる――ってその一言が、堪らなく胸に響いて嬉しくて。誰にも、ましてや異性で上司の補佐になんて絶対に言えるはずがないって思っていたのに、その一言が私の涙腺をまた崩壊させて、閉じ込めた心を砕いた。
補佐はただ、仕事の効率を良くする為だけにそう言ってくれたのかもしれない。
でも私のほんの僅かなプライドは、あっさり崩れた。
だって、補佐の声があまりにも温かくて穏やかで、優しく胸に響いたから……
「わ、たし……っ、私」
「うん」
私しか言えない私にただ頷いて、補佐は私に触れるでもなくただ包み込むような優しい表情で見つめてくれていた。
泣きながらその顔見て安堵して、ひゅっと息を吸い込んでは小さく吐き出すのを繰り返してからゆっくりと言葉を紡いでいく。
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