承:始まる恋

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 「お前、みたいなの、ヒィッ、く……彼氏、いないだろって、言われて」  「うん」  「やっぱり、私なんて、声だけで、ヒクッ……ダメな女って、分かるのかなって、思って……ふっ、うぅ」  言いながら、それでもやっぱり過去の全てを晒す覚悟はなくて、ギリギリ譲歩できる部分を掻い摘んで話した。  話しながら、また電話で言われた言葉が脳裏を駆け巡って涙が込み上げてくる。  自分で自分の馬鹿さ加減が悲しい。  過去のこともそうだけれど、今現在の自分だってそうだ。  電話の基本すらマトモに出来なくて、こうやって上司の足を引っ張ってる。  挙句に落ち込んでるのを仕事中に慰めてもらうだなんて、あり得ないにも程がある。どこの学生だって話だ。  そんな不甲斐ない私自身がまた悔しくて、うぅうって涙が込み上げてくる。ヒクッって言いながら小さくしゃくり上げていると、そんな私を近距離で見下ろして補佐はため息をついた。    そのため息に私は身体を強張らせるけれど、補佐はふぅっと息を吐いてから私をじっと見て、そして淡々と尋ねてきた。  「江藤、お前、俺を見てどう思う?」  慰めの言葉でもかけてくれるのかな? と、小さく期待した私は拍子抜けした表情を補佐に見せた。  見つめるその先には、なんの感情も読み取れない顔がある。  掴みどころのないその質問に困惑しつつも、何か答えなきゃって気持ちでいっぱいになって、逡巡しながら口を開いた。  「えと、それは男性として、ってことですか?」  「あー……ま、そうだな」  私が質問の内容を確認すると、自分から尋ねておきながら『いや、こんなこと聞かれても困るか』なんてブツブツと歯切れ悪く言っている。  さっきまで無表情だった補佐が途端に困り顔を浮かべているのがおかしくて、流れていた涙をぬぐいながらクスリと笑った。
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