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「補佐は、素敵……です。モテそうですし。上司としてもすごいなって」
上から下までスッと眺めてから、私が4月に来てから今まで見てきた補佐を思い描いてみて、素直にそう答えた。
背はそこそこ高いし、顔だって悪くはない。
仕事は厳しいけど、部下の反応もきちんと見てくれてる。
齢30にして課長補佐って役職も一般的に魅力的だし、女性から人気あること間違いない……ハズ。
するっと自然に自分の口から素敵だなんて表現が出たことに、後から恥ずかしいことに気付いたけれど……今は気負いなくその言葉を口に出来る雰囲気があった。
「お前、褒めすぎ。そんな出来た人間じゃないぞ俺」
ストレートに表現したことが補佐には殊の外恥ずかしかったようで、照れ隠しで頭を掻きながら、私の額をペちりと叩こうと繰り出されるのが見えてすかさず両手で薙ぎ払う。
そんな子供じみたやり取りをしてから補佐を見ると、目が合って二人そろってにやって笑った。
こういう風に小突いたりするところも、部下とのやりとりの中で上手にやってくれてて、上司としてうまいと思ってたりする。
笑ってから補佐は私の横にドカッと座ると、非常口を指す緑のアレを見ながらぽつぽつ語り始めた。
「お前の想像? とかけ離れてて悪いが。俺さ、彼女なんて長いこといない。居ないどころか、すでにかれこれ8年は独り身」
「えっ!?」
想像もしていなかった信じられない事実に、同じように見つめていた非常口から視点を移動させて、補佐の横顔を穴が開きそうなくらい見つめた。
見つめると、私の反応に困ったのか補佐がひょいと肩を竦める。
大きい身体でそんな態度を見せる補佐がなんだか可愛く思えて、私はクスクスと笑った。
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