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そんな私に気が付いてか、弱々しい声で先に係長に挨拶していいよって声が聞こえて振り向くと、課長が居た。
その言葉に甘えることにして、課長補佐を飛ばして再度挨拶を始め、一通り挨拶を終えて時計を見れば昼休憩が近い。
いい加減、何か仕事も始めなきゃだ! と思いながら慌てて席に着いて片づけ始めた矢先。
室内がざわついたのを感じて手を止めて顔を上げると、挨拶できずにいた補佐らしい人が戻ってきたことに気が付いた。
課長の隣の席に腰を落とし、課長と2、3言言葉を交わしているのが見える。
私は作業の手を止め課長補佐の席へ向かおうと立ち上がると、私が向かうよりも先に補佐が私の元へと歩いてきた。
ずんずん近づいてくるその人に、緊張感が漂う。
なんだかすごくオーラがあって、近づくのが怖く感じた。
「え、と……」
思った以上のスピードで私の目の前に立つ補佐らしいその人に圧倒されて、上手く言葉が出ない。
喉がカラカラになるのを感じながら、ゴクリと唾を飲み込んで見上げると、冷ややかなメガネのレンズ越しに私を見下ろしながら、先に挨拶を始められてしまった。
「挨拶が遅れてすまない。今日から課長補佐でこちらに来た永友刻也(ながともときなり)だ。よろしく」
あ……と、心の中で声を漏らす。
さっきの『すまない』の人と同じ声だって。
どうやらさっきは、この目の前にいる上司とぶつかっちゃったらしい。
よろしくの言葉と同時に手を出されて、ふわりと補佐の纏う香りが鼻腔に届く。
なんだか、懐かしい香り……ふと、さっき一瞬思ったことが脳裏を過る。
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