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そのせいで一瞬ぼんやりとしてしまい、怪訝な表情を補佐は見せた。
それに気が付き、私は慌てて手を出してぎゅっと出された手を握り頭を下げた。
「江藤萌優です。よろしくおねがいします!」
「元気だな。よろしく」
クツクツと笑われながら緩く手に力を込められた後、手を緩められ私も同時に手を離した。
さっき感じた威圧感とかそう言う強い感じが今の笑いでふわっと飛んで行って、私の中で何となく補佐は頼っても大丈夫な人ってカテゴリに入った。
そのことにホッとしながらぺこりと頭を下げると、補佐はくるりと身体を翻して席に戻っていった。
その背をただぼんやりと見送ってから、私はハッと意識を取り戻すと、止まっていた片付け作業に慌てて取り掛かった。
――――――
「かんぱーーいっ」
カチン
それぞれのグラスから、グラスが重なりあう音が響いて皆次々と中身を飲み干す。
お酒が得意なわけじゃないけど、こういう飲み会の空気だけは好きだなって思いながら、お通しに出て来たぬた和えに箸を伸ばした。
今日は定例になりつつある同期会で、4月1日の異動日は、どこも残業があまりないことからみんなが集まりやすいらしい。
「お前んとこどう?」
ビールをグビっと飲みながらそう声をかけて来たのは、男性陣の中では一番仲良しの風間守矢(かざまもりや)で、通称もりやん。
男の人が少し苦手な私も、もりやんだけは抵抗なく付き合えていて、同期としての距離を上手く保ちながらやっていけている。
質問に対して、うーんと天井を仰ぎながら今日を振り返ってみた。
「んー、イイ感じだよ。程良く忙しいし、やることも幅広いし。全体のバックアップ作業って感じで、私には向いてるかも」
「へー」
「もりやんは?」
そう言って視線をもりやんに戻すと、彼は少しだけ口をへの字にして答えた。
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