起:初めての恋

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 そんな、私流の心の中のお礼が終わり、またくるりと身体を反転させて元の進行方向へ……つまりは廊下へと歩き出そうと踏み出した瞬間、肩にドンと音が響いたと同時にじんわりと痛みが広がった。  「ったた」  何かにぶつかった衝撃と痛みに思わず声が漏れ、顔を歪ませる。  痛む肩を擦りたくても両手が塞がっていて、何も出来ない。肩口を見るように俯いていると、ぶつかった相手だろうか?  「すまない」って声が頭上に落ちてきた。  ぶつかった瞬間は、やっぱり嫌な気分になった。荷物で手いっぱいだったし、初めての異動で緊張している中で横転しそうでドキリとした。  けれど落ちてきた、すまない、の声に私のそんな思いは吹き飛んだ。  透き通るような、それでいて深くて穏やかな声。  私の何かに触れるその声についふらりと意識が持って行かれて、無意識のまま『大丈夫です』と言いながらゆるりと顔を上げると、もうすでに足音は遠ざかっていて、人に紛れて誰とぶつかったのか分からなくなっていた。  ――それにしても、何かを思い出す声だったなぁ……それに、この香り嗅いだことがあるような。  なんてことを一瞬思ったけれど、顔を合わせることもなく去ってしまった男性のことをそれ以上想像することも難しくて、いい加減異動先に向かわなければと思い直し、慌てて私は新たな新居地である総務課へと急いだ。  ――――――  「よろしくお願いします!」  あんたは声が大きい、ってしょっちゅう言われるけど、小さい声の出し方をむしろ教わりたいくらいだって言われる度に思う。  その相変わらずのバカでかい声で、課内の先輩方に順に挨拶をして回った。  最初に総務課の属する部長に挨拶に行って、後は課長から順に……と思っていたのに、課長補佐が不在で躓いてオロオロした。  こういうのって順番飛ばしちゃってもいいんだよね? とか。初めての異動だけに三年目とはいえ経験がなくて困惑する。
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