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部屋を飛び出すと暗い人影がぼぉーと気配を消し、立っていた。
「お、お父さん! どうしたの? お酒臭いよ?」
昨日のお酒が抜けなかったの?
「綾、俺は馬鹿だったのかも知れない……」
父はフラフラと体を揺らし、辛そうに壁に寄り掛った。
「え、何……歯を磨いて、顔洗って。会社に行く時間になっちゃうよ?」
「ああ、そうだったな。ちょっと朋子を思い出してね……弱気になってしまったようだ。今の幸せは間違ってないよな」
――失敗だよ。
と言いたかったけど我慢をした。今にも涙を流しそうに、悲痛の表情をしていたから。
「お父さん。ご飯食べれば、元気がきっと出るよ。カッコイイ顔が台無しだよ、しっかりして」
腕をポンポンと叩いた。こんなにも気力を感じられない父は、あの葬式以来の様子だった。
――猿田がお父さんに洩らした、浮気ネタが効いているのかな……りんに不信感を持ちはじめているの?
「賢い綾が、娘で本当に良かった。お前は俺の宝物だよ……」
「止めてよ、お父さんまだ酔ってるの? 早く行こう。りんさんに変な風に思われちゃうよ」
「……そうだな」
階段を2人で下りると、りんは昨日の事が嘘のように微笑みを浮かべていた。
「2人ともスープが冷めちゃうわ? 早く座って。拓也さんは頭がぼさぼさね? 顔を洗ってきて下さいな」
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