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「…体の方は大丈夫なの?」
ミチルの後ろ姿を見送りながら、取り敢えず挨拶代わりの言葉を口にした。
「はい。あの時は綾子さんに御迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした」
彼女は眉を寄せ深々と頭を下げる。
「…もういいよ。今日はそれを言いにこんな所まで来たの?」
寮の玄関先で、部外者の娘に頭を下げられるこの状況。
周りを見回しながら声を潜めた。
「はい、それともう一つ綾子さんにお伝えしたいことがあって…」
彼女は顔を上げ微かに笑みを浮かべた。
「…なに?」
彼女の笑みに違和感を感じながら、私は喉から絞られた低い声を漏らした。
「単刀直入に言います。私、綾子さんがご存知の様に翔太さんが好きです。諦めようと思ってもどうしても諦められないんです。彼の気を引こうと頑張ってみたものの、上手く行かないものですね。綾子さん、本当に愛されてて羨ましいです」
「…はっ?…」
この娘は一体何を言ってるのだろう…。
不適な笑みを見せる彼女を、ただ唖然と見つめる。
そして、我に返ると次の瞬間カッと頭に血が昇るのを感じた。
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