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白石さんが寮に訪れた夜、私は翔太に事情を話した。
最後に、「あの子、言ってる事おかしいし、情緒不安定みたいだから翔太は関わらない方が良いよ」その言葉を付け加えて。
翔太は私の話を聞き終えた後、「ああ、分かってる。所長から聞いたんだけど、白石さん、一月から仕事復帰はするけど、三月いっぱいで退職するらしい。あと少しだから、綾子、嫌な思いさせてごめんな」そう、申し訳なさそうに言葉を返した。
私は彼の目を見つめ、黙ったまま胸に顔を埋めた。
「翔太は悪くないから。大丈夫、翔太を・・・信じてるから」
【信じてる】・・・
さらりと口から出たその言葉に自分でも驚き苦笑いを浮かべた。
決して和馬を手に入れることはできない。
和馬への想いに走り翔太を失えば、ただ梨花さんへの嫉妬に狂うあの日々がまた続く。
一人孤独に堪える毎日はもう私には出来ない・・・。
「綾子、俺には綾子だけだから。心配しなくていいから」
翔太は私を抱きしめ優しく頭を撫でた。
「…うん」
柔らかに伝わる彼の囁きに、胸の痛みを感じながらきつくまぶたを閉じる。
私が求めるままに、変わらぬ温もりで私を包み込んでくれるこの腕。
翔太…私の帰る場所。
この温もりを、安らぎを失いたくない。
あの女には絶対に奪われたくはない。
分かってるよ…和馬。
貴方が望む、私達の関係。
私は、どこまでも悪女になってやるから…。
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