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辺りが静まり返り、日付も変わる頃。
俺は会合を終え藩邸に歩を進めていた。
頭に浮かぶのはあの得体の知れない女。
もとい、昨日から俺の小姓。
少し欠けた月を見上げ、ため息を漏らす。
あれは…一体何なんだろうね。
話だけだと疑うしかないけれど、あれを見ているとつい信じてしまいそうになる自分。
だいたい、あんな思考だだ漏れの人間に間者なんて務まるとは思えないけど。
黒かと思えば白になる。
逆もまた然り…
「どうにも面倒な女を拾ってきたもんだよ。牛は」
藩邸の門をくぐり、自室へと向かう。
廊下を進んでいる途中。
ふと足を止める。
何気無く考えていた自分の考えに、思わず笑いがこみ上げた。
くくっ。
俺は何を考えているんだろうね。
これじゃあ馬鹿は俺だよ。
俺は…あの人が亡くなってから何も感じなくなった。
全てを奪った、憎き幕府。
俺は幕府に復讐する事だけを考えてきた。
邪魔立てすれば殺すまで…
そう。
ただ、それだけだよ。
俺はそこまで考えて、既に休んでいるであろうあれがいる部屋へと足を進めた。
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