いまあること

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雨粒をよく見ると、そのひとつひとつが重力によって形を変えられていることがわかる。 たくさんあるそのどれもが、綺麗な円を歪んだ楕円に変えて落ちていく。 彼らはかつては自分が円であったことを覚えているだろうか。 地面に打ちつけられ飛沫を散らすその時まで、まるでそうであったかのように歪む。 そして、自分が弾け飛んだ時にはじめて、彼らは自身を自覚する。 細切れになりながらも自分の体を見て、どのように感じるのだろうか。 ザーザーと降る雨。ピチャピチャと滴る雫。 それらはかつて円であった。 美しい円であった。 窓ガラスを滴り落ちる雫が一人の少年の前を通り過ぎる。 夏目雄輔は雫を見ていた。 それは窓ガラスを伝うものではなく、葉の上にこびりついているものだった。 今か今かと落ちるのを待っているのだが、動く様子は見られない。 時節襲い来る風にも負けず、それでいて強かに葉の上を陣取る、たった一つの大きな雨粒。 しばらくしても雫は落なかったので、夏目は窓から離れた。
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