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「…田畑くん、慎一くんとあんまり仲良くなかった…?」
「そんな事無いけど」
「そ、そうだよね。仲良くなければ余興なんて頼まれないよね」
困惑を隠せないまま顔色を窺うけど、その表情からは感情は読み取れない。
田畑くんは確かに冗談が好きだけど、そこまで言う人には思えなかった。
「…もしかして、亜希子の事が好きだった?」
口をついて出た安易な考えに、田畑くんがやっとこっちを見た。
その顔は無表情なのに、何故か私が責められているように感じて居心地が悪く、慌てて目を逸らす。
…傘を持つ手が冷たい。
早く、バスが来ればいいのに。
「加藤を選ばなかった慎一なんか、不幸になれば良い」
その意味を汲むのに時間がかかった。
頭でそれを理解した瞬間、冷水を浴びせられたような気分になった。
「………」
…どうして、それを。
私の汚い部分を知っていた田畑くんが怖くて、もう顔を上げられない。
車が近くを通る度に不愉快な水音が肌を撫でた。
視界に映る田畑くんの革靴が、どこまでも私を追い詰める。
濡れて濃くなったネイビードレスの裾とおろしたてのラメ入りの靴が何とも滑稽で。
…消えてなくなりたいと思った。
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