慈雨を、きみに。

4/13
前へ
/14ページ
次へ
  「…田畑くん、慎一くんとあんまり仲良くなかった…?」 「そんな事無いけど」 「そ、そうだよね。仲良くなければ余興なんて頼まれないよね」 困惑を隠せないまま顔色を窺うけど、その表情からは感情は読み取れない。 田畑くんは確かに冗談が好きだけど、そこまで言う人には思えなかった。 「…もしかして、亜希子の事が好きだった?」 口をついて出た安易な考えに、田畑くんがやっとこっちを見た。 その顔は無表情なのに、何故か私が責められているように感じて居心地が悪く、慌てて目を逸らす。 …傘を持つ手が冷たい。 早く、バスが来ればいいのに。 「加藤を選ばなかった慎一なんか、不幸になれば良い」 その意味を汲むのに時間がかかった。 頭でそれを理解した瞬間、冷水を浴びせられたような気分になった。 「………」 …どうして、それを。 私の汚い部分を知っていた田畑くんが怖くて、もう顔を上げられない。 車が近くを通る度に不愉快な水音が肌を撫でた。 視界に映る田畑くんの革靴が、どこまでも私を追い詰める。 濡れて濃くなったネイビードレスの裾とおろしたてのラメ入りの靴が何とも滑稽で。 …消えてなくなりたいと思った。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加