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しかし、絵里子はこれ以上怪我を隠すという面で協力は出来そうになかった。考えれば考えるほど、絵里子の脳内は虎次に失礼な姿ばかりが浮かび上がり、ろくな方法を思いつきそうになかったからだ。
ここは大人しく包帯でも巻いていてもらえないかと思ったが、まず聞いておきたいことがあった。
「なんで、怪我を隠したいの?」
絵里子は単純に疑問に思ったから聞いただけだった。
絵里子の問いに対して、虎次は口を閉じた。もしかして、聞いてはいけないことだったのだろうか。絵里子が焦りを感じた時、一度閉じたはずの虎次の口がおもむろに開く。
「心配させたくない人がいるんだ」
その言葉に、今度は絵里子の口が閉じる番だった。
―心配させたくないなら、喧嘩しなければいいのに。
思うのは簡単だった。けれど、自分ではどうにもならないことがある。絵里子は、たった一言が言えなかった。
心配させたくない相手というのは、両親だろうか。見た目によらず、優しい面とかかわいい面があることを絵里子は今日、初対面ながらも知ってしまった。
きっと、親思いな一面もあるのかもしれない。絵里子はそれから、口を開くことが出来なかった。
そうしているうちに、保健医が戻ってきて、虎次の状況に目を丸くした。
急いで消毒液を持ってきて、余計なお世話だと言われながらも強引に手当てをしていく。絵里子は保健医の慣れた手つきをひたすら見つめるだけだった。
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