2/50
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
絵里子とあずさは中学の頃からの仲である。 高校に上がり、同じクラスを喜び合い、今月の頭に行われた席替えで前後になったことを笑いあったばかりだ。朝、まだ生徒がまばらな時間帯。あずさは絵里子にある話をしていた。 ―この学校には、なんでも凶悪なヤンキーが居るらしい。 絵里子はその一言に思わず口元を手で覆った。あずさはそれを見て、しかも、と話を続けた。 ―そのヤンキーは、このクラスに居る。 絵里子は肩を縮め、うつむいた。微弱にもその肩は震えている。 あずさは一つため息を吐いた。 端から見ると、絵里子は何が悲しいのか泣いているように見える。それを何も言わず見続けるあずさはあたかも冷酷な人間のよう。 隣のクラスから遊びに来ていた生徒は、なにあれ、泣いてない?とざわめき始めるも、落ち着いたのか顔をあげた絵里子の目は充血しているものの涙のあとは見られない。 それでもあずさの目を見ようとしない絵里子に、あずさがさっと見せたのはそのヤンキーらしき人物の写真。 ―!! 瞬間、絵里子は机や椅子をガタガタっと巻き込んで体を大きく震わせた。耐えきれない。言いたげに絵里子は口元を覆い隠したまま、教室を飛び出した。 ざわめく周囲を余所に、あずさはゆっくりと立ち上がり、急ぐでもなく絵里子の後を追ったのだった。  
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!