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教室近くの階段下の薄暗い中に絵里子は居た。
「絵里子」
あずさがそっと声を掛け、絵里子の肩に手を掛ける。振り向いた絵里子の顔は、力いっぱいくしゃくしゃだった。呆れた顔で絵里子を見るあずさが再度写真を見せると、絵里子は爆ぜた。
「あははは!も、もうダメ!あはははは!」
盛大に吹き出したため飛散した絵里子の唾があずさの顔面に降り注ぐ。
「あんたのその何でも笑う癖はいつになったら治るのかしらね」
笑い続ける絵里子に、唾まみれの顔のままあずさはため息交じりで呟いた。
絵里子が笑い疲れて一息吐いてから、二人は教室に戻る廊下で高橋という男子に出会った。高校に上がってから仲良くなった最初の男子だ。
絵里子の癖のため、あずさは付きっ切りで絵里子の学校生活を共にしていたのだが、よく口元を覆いうつむく絵里子を目に、クラスの皆は
―福田あずさは清水絵里子をいじめている。
という印象を持ってしまっていた。
クラスの女子はあずさを良く思っていない。
おまけに人並み外れたあずさの容姿が、重ねて二人を遠ざけてしまっていた。
しかし、クラスの中で二人の印象が出来上がる前、入学当時の絵里子の隣に座っていたのがこの高橋君である。
高橋君からして見ると、単純に早くクラスに馴染みたかっただけで声を掛けたというのに、相手は話しかけただけで顔を隠し逃げるわ、突然美人がやってきて冷たい目で「この子に近づかないで」と威嚇されるわ、まったく災難である。
しかし負けじと声を掛けたのが良かったのか、絵里子はまだ馴れないものの、あずさは少しずつ高橋君と普通に話せるようにまでなった。
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