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「おはよう、清水さん、福田さん」 「おはよう高橋君」 「お、おは…おは、よ、」 朝の挨拶に相応しい爽やかなやりとりをする高橋君とあずさとは異なり、震えた声でやっとこ挨拶をした絵里子。 中学の頃からの仲であるあずさにも、絵里子がどこで笑ってしまうのか、未だに掴めずにいた。 ちなみに高橋君のズボンの裾がちょっとだけ曲がっていたのが絵里子は面白かったらしい。人の顔を見て笑ってしまうのは失礼だからと、普段から目線はやや下がり気味の絵里子にとって、高橋君のズボンの裾がちょっとだけ曲がっていたのは不意打ちだった。 「…清水さん、今日も相変わらずだね」 「ええ。そうね」 高橋君は絵里子が笑い上戸だということに気付いてはいない。 多くの生徒同様、臆病で人と接するのが苦手だと勘違いしている。ただ、最近は照れ屋さんなんじゃないかと、勘違いに勘違いを重ねているのだった。 廊下にも人だかりが出来て、もうすぐ鐘が鳴ろうという頃。絵里子たちのクラスの担任が遠くから歩いてくるのに気付いたあずさが、教室へ入るよう促した。 絵里子とあずさは窓際最後列前後の席順であるのに対し、高橋君は廊下側最前列。密かに絵里子に好意を抱いている高橋君にとって、今回の席替えは誠にもって遺憾であった。 さらに高橋君にとってよろしくない事実がもう一つ。 絵里子の隣の席が男子であるということだった。 その席は現在空いているのだが、なんでも入学から三日で学校に来なくなった問題児の席だということ。あの臆病で人とのコミュニケーションが苦手な清水さんが、その問題児に目をつけられたらどうしよう。不安は高橋君の中で小さいながらにも渦巻いていた。 「っ…っ…っ…」 そんな高橋君の気持ちも知らず、絵里子はあずさと共に窓の外からグラウンドを見て、しきりに笑いを堪えていた。  
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