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とりあえず何が起こっているのかと視線を上げたその先で、乱闘と思わしき有り様。
複数人が散り散りに倒れていて、現在立っているのは進行形で殴り合いをしている二人だけ。
それももう終わりを迎えようとしていた。
片方が大きく腕を振り、拳を相手の顔面に突き当て、盛大に倒れたところで終結。ふらふらながらも立っているその一人のみが勝者だった。
絵里子はその瞬間を見てしまったのである。
…まさか、漫画のような瞬間を見ることができるなんて。
しばらく呆けていた絵里子だったが、何が面白かったのか次第に笑いがこみあげてきて、口元を抑える。
こんな状況で笑う人なんていないのに。不謹慎、馬鹿。
自分を心の中で叱咤しながら、声を上げないようにしていたが。勝者が振り向いて絵里子の存在に気付いた。
「…何見てんだテメェ」
返り血を浴びたその格好で凄む姿は弩迫力満点である。にもかかわらず、吹き出しそうになる絵里子。
金髪の血まみれ土まみれ男子が、惜しげもなくこちらを睨みつけているというのに、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ乱れて跳ねた髪の一束に目がいってしまったのである。
本当なら恐怖のあまり逃げ出すものだが、不意打ちは笑い上戸を隠したい絵里子にとって恐怖以上の恐怖だった。
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