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こんなに美味しそうに手作りのお弁当を食べてくれるのなら、譲った甲斐があるというもの。絵里子は自分のお腹の虫が騒ぐのを必死で収めた。
ぴりり、と絵里子の携帯電話が鳴る。あずさからのメールが届いていた。もう少しかかりそうだから、先に食べてて、とのことだった。
多分、今日はもう一緒にご飯は食べられない。午後の授業が始まる前に購買に寄って、パンでも買うべきか。
悩んでいると、虎次が両手を合わせて、ごちそうさま、と言い放った。
「美味しかったですか?」
「まじ美味かった!お前の母親、料理上手だな」
未だに瞳をきらきらと輝かせる虎次に、見たら絶対笑ってしまうと感じ、目線を下げて話す絵里子。
「あ、これ、私が作ったんです」
「は!?嘘だろ!?」
「料理が趣味で…お弁当は、毎日、私が作ってて」
きらきらコンタクトがぽろりと落ちたかのように、虎次の瞳は輝くのを止めた。
代わりに、これでもかというくらい見開いて絵里子を見ている。
しばらく沈黙が続いたが、虎次が「お前やるな」と絵里子の頭をくしゃくしゃと撫でたので、絵里子はどうしていいのかわからずに「ありがとうございます」と返した。
絵里子はなんだかくすぶっていた。
今ではもう絵里子と虎次の二人しか居ないが、先ほどまでこの虎次、大勢を相手に喧嘩をしていて、その大勢は虎次に倒され死屍累々の如き有り様で、女子である自分にまで危害を加えようと虎次は威嚇してきたのだ。
今はどうだろう。絵里子が作ったお弁当を幸せそうに食べ、美味いと褒め、頭を撫でている。この短時間であまりのギャップを見せられたのだ。
「俺、一年の三谷虎次。あんたは」
「えっ!?私も一年!清水絵里子」
「なんだ、じゃあタメじゃん」
さらには同い年という追い打ちに、絵里子は思考を放棄した。
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