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【ニーカ】 ニーカはある館の前で、いつになく高鳴る胸を必死に抑えていた。 漸く、と。 そう思えば、しかし堪えようもない。 数年前、父に連れられ参加したとあるパーティ。何れ仕えるかもしれない人々の集まりだとしても、今一つ興味の持てないニーカは結局参加している人々を眺めているだけだった。 様々な見栄を張り、華美に優雅に振る舞おうとする人々を冷めた思いで当てなく追う。 けれど一人の少女を見た瞬間、その目はさ迷う事をやめた。 白く消えゆきそうな肌に赤く色づいた唇。流れるように揃った髪は緑の黒髪。(ニーカの髪は柔く癖を持っているので、正直羨ましくも思った。) 姫と呼ぶに相応しい出で立ちの彼女は、歌姫と呼ばれていると後に知った。 ただ遠目に一度、見たきり。 けれどニーカは思ったのだ。心底、この方に仕えたいと。 しかし今の自分は酷く力不足で、彼女に話しかけるに足る者ではないと己を恥じたニーカは、「そういうものだ」と流していた今までの生活の全てに身を入れた。 メイドとして屋敷を整える術も、身をとして主を守る術もひたすらに学んだ。 そうして今ようやく、この場に立てた。 まだまだ十分ではないが、いつかより幾分彼女に近づけるだけの自分になれたとニーカは自負する。 ただこの思慕にも似た敬愛はニーカだけが持つものであり、受け入れるかどうかは歌姫しだい。 緊張と高揚に落ち着かない胸に手を当てて一度息を深く吸うと、いつも通りの表情に戻ったニーカは屋敷の門に手をかけた。
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