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クウコ2
「往来で失礼致します。あなたがこの地の領主、ラルフ様でしょうか?」
「そうだが、お前は、」
「私は…クウコ、とでもお呼び下さい」
「クウコ、私をこんな場所で呼び止めて一体どんな用件だ。」
異国の風情を纏い、しかし凡庸さしか感じさせないクウコに、苛立たしげな声が問いかける。
近くで猛禽の鳴く声がしたのも気のせいではあるまい。
「申し訳ありません。
声をお掛けした理由としては、ラルフ様に私を雇って頂きたいのです。」
「割りに、自分から私の元を訪ねるのではなくこんな場所でとは、随分ふざけているな?」
「なにぶん今、あなたとすれ違い雇って頂きたく思いますれば。」
「ではそんなお前は、何が出きると言うんだ」
尊大な、あるいは不遜な態度で問いかける男に間髪置かず一言、生きた年月がそう答えさせる。
「何でも。」
それは永い時間に裏打ちされた事実であり、声色に傲りはみられない。
「これでも私は、貴方よりずっと長生きなのですよ。」
姿こそ対峙するものと同じような年の頃であるが、それはまやかしひとつでどうとでもなるもの。
穏やかな目元が一層、古老の面差しをもって優しく細められた。
「望むのであれば、あなたの知恵にも力にも、影にもなりましょう。
その代わり、貴方の命尽きる時まで私を側に置いて頂きたく。
我が身の全てを貴方に捧げる代わり、側で貴方の生きる道を見届けたいのです。」
貪欲な光をその目に湛えるこの若者は、果たしてどんな暴君になるのか。
今は怪訝にひそめられたその眼差しに、どれほどの先見を持つのか。
是非に見届けたい。
彼の者こそ己の探していた人物だと確信した狐は、構えた礼を一層深いものにする。
折角のあり余る余生なのだ。多少楽しんだとて罰はあたるまい。
「私をお側に置いて頂けないでしょうか」
薄く閉じられた穏やかな茶の瞳の中に、金色の光が揺らいだ。
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