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ドン、と重たい音を立てて置かれた袋がカウンターを揺らした。
「報酬は?」
ちょうど人の頭一つ分あるその袋の中を確認して、万屋の店主は不敵に笑う。
「まさか本当に倒してくるとはな」
「マスターの頭には、その台詞しかインプットされてないワケ?」
難しいと言われた仕事だけを回され、それをこなしている彼にとっては、もはや聞き慣れた台詞だった。
頭を人差し指で叩く人を小馬鹿にした態度に店主は少し笑うと、一枚の小切手を彼に渡した。
それを受け取ると、そそくさと懐へとしまう。
「どーも」
「新しいお前向けの依頼が来てるぞ、見て行くか?」
店主が袋をカウンターの下にしまいがてら、依頼状をいくつか取り出した。
「こういうのに向き不向きがあるとは思えないんだけどな、」
「あるんだよ、お前には分からないだけで」
なんだって最終的にはこなしてしまう、不器用だが努力家で根性のある彼には、という話だった。
「ふーん……で、どれ?」
「ああ、これだよ」
いくつか取り出された依頼状の中からこちらに寄越されたのは、一枚の紙切れ。
彼はそれを受け取ると店主の顔を見た。
「これ一枚だけ?」
「無いんだよ、これしか情報が」
その紙には、紙の四分の一は占めるだろう大きな文字で【鬼の討伐要請】と書かれていた。
なんでも、街に設置されている監視カメラにまさに補食中の、人の姿をした鬼が写っていたのだという。
以前から行方不明になる者が多く居たその地区が、原因はその鬼にあるのではないかと憂慮して万屋に出してきた依頼らしかった。
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