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「どんな容姿かっていう情報すら無いじゃない、監視カメラに写ってたんでしょ?」
「カメラに写ったデータは街が管理してるから載せれないんだと」
とんだ鬼畜な依頼主だ。
幸い、生息地だと思われる場所のデータは載っていたが、そこは……
「……妖怪がうっじゃうじゃ居るっていう、あの森ですか」
「らしいな」
「ずいぶん他人事じゃない、ボクに死ねって言うの?」
トントンとカウンターを指先で叩きながら苛立ちを露に食い下がる。
その森に足を踏み入れて無事に帰ってきた人は、そう多くはなかった。
「だから言っただろ、お前向けだって」
「あのねぇ……この依頼のどこが、」
不服そうな彼の顔を、店主が真正面から捉える。
「噛まれたらひとたまりもない。」
「…………」
それはそうだ。
人を食べるくらいだ、鋭い牙くらい生えているだろう。
「……もうひとこえ」
「ひょっとしたら、爪も強靭なんじゃないか?」
店主が爪を表すように指を蠢かせる。
硬く鋭い爪で繰り出される一撃。
「……ふ、ふふ…っ」
「動きも速くて力が強い!……たぶんな。」
たぶんの一言は、もはや彼には聞こえていなかった。
「乗った!はぁんっ……その鋭い爪で抉られたい……っ」
「相変わらずだな、お前」
店主が苦笑しているのも気にならないのか、彼は自らの体を抱き締めながら悶絶する。
「だって、最高じゃない!痛さだけがボクの体全部を支配して、何も考えらんなくなるんだ……ふふっ、早く戦いたい…!」
「この変態」
他の依頼状を片付けてから、店主は印をその手に取り声をあげる。
「交渉成立。」
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