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 またいつか離れていくんだろう。それはわかっている。だけど、それでもよかった。  汗ばんだ身体から、、次第に熱が引いていく。冷たいシーツ。隣にはもう誰もいない。 「早く服着なきゃ……」と呟いて、鈴那は床に散らばる洋服を集めた。  さっきまで一緒にいたのは加藤だ。居酒屋で再開したあの日から、また関係を持つようになってしまった。  加藤は以前のように、甘い言葉を囁いてくれる。でもことが終わると、彼は自分のいるべき場所へと帰っていく。加藤の言葉は嘘だとわかっているのに、それでもいいなんて思っている自分は、本当にバカだと思う。だけど今は、この場所だけが自分の居場所のような気がして。  テーブルの上に置かれたお金。それを見るたびに、手切れ金のことを思い出す。麻痺してしまったのだろうか。涙なんて出ないし、悲しいなんて思わない。  加藤との連絡はネットサイトを介して取るようになった。直接のメールではないから、奥さんにバレルる可能性は低い。隠し続けなければならない。バレたらこの居場所はなくなってしまう。  加藤は、「バレたら会えなくなる。それは嫌だから」と言う。彼はどんな心境なのだろうか。会えなくなるのが苦しいから? それとも身体を満たす相手がいなくなるから? 「愛してる」や「好き」は、言葉だけだとわかっているのに、現実から目を背けて自分に都合のいいように解釈したくなる。自分はどこに向かっているのだろう……。まるで出口の見えないトンネルを歩いているようだ。
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