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「桐生、まず落ち着け」
息がうまくできない。いつの間にかしゃくり上げていた。桐島が隣にきて背中をさすってくれる。この手すらも欲しいと思う自分は、世界で一番の大馬鹿者だ。
「落ち着いた?」
しばらく泣いたあと、桐島にそう言われ、鈴那は静かに頷いた。たくさん泣いたら、なんだかスッキリしたみたいだ。
「話したいことがあるなら、ゆっくりでいいからな」
鈴那はゆっくりと深呼吸をして、桐島に打ち明けていった。桐島は驚いていたが、途中で口を挟むことは一切しなかった。
「私、本当に馬鹿ですよね……。不倫して赤ちゃんができて。それでも産みたいと思うんですから……。桐島さんたちによくしてもらっているのに、裏切るようなことをして……本当にごめんなさい」
雨の中、濡れて帰ったあの日のことが、昨日のことのように蘇ってきた。
「謝らなくていいよ。それが桐生の決めたことなんだろう?」
桐島は全てを伝えても、優しかった。
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