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 母にだけは本気なんだとわかって欲しかった。その思いが通じたのか、それ以上母は何も言わなかったけれど、決して納得しているわけではないだろうと思う。父親が帰ってきてからもう一度話そうということになり、母は途中だった夕飯の支度をつづけ、鈴那は自分の部屋だった場所へ引っ込んだ。  部屋は懐かしい匂いがした。今は使われていないが、自分が使っていた時とあまり変わっていない。変わっているものといえばベッドがないくらいで、学生の時に好きだったアーティストのポスターや、ずっと使っていた机は昔のままだ。あの頃はこうなるなんて想像もしていなかった。  素敵な彼氏ができて、いい仕事に就いて、結婚して、子供ができて、家族で仲良く庭で遊んで……。そんな当たり前の幸せを想像していた。でも、現実は理想とは随分かけ離れていた。    いったい、どこから違ってしまったのだろう。  しばらくして父親が帰宅した。鈴那は机にもたれ、いつの間にか眠っていたらしい。突然部屋の扉が開いた。 「鈴那、来ていたのか」 「うん、お父さん、おかえりなさい」 「お母さんと喧嘩でもしたのか? なんか機嫌が悪かったぞ」  そういって、父は鈴那の顔を確認したあと着替えに行った。
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