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娘が帰って来ていることが、父はとても嬉しそうだった。そんな父を見ると、鈴那は胸が締め付けられた。両親に対して申し訳なさを抱えながら、鈴那は部屋を出てリビングへ向かった。
久しぶりに家族で食卓を囲んだけれど、母とは一言も喋らないまま。父はそんな二人を気にしながら、好物の唐揚げを口に運んでいる。
鈴那は食が進まない。匂いがたまらなくきつかった。どんどん気分が悪くなってくる。
そんな鈴那を見た母は箸を置き、席を立ってキッチンにいった。戻ってきた母の手には梅干があった。
「これ食べなさい」
「……ありがとう」
「父さんのはないのか?」
母は「あなたは朝食べたじゃないですか。塩分の摂り過ぎはいけませんからね」と言って、父にはあげなかった。
梅干を一口かじる。これなら食べられると思い、鈴那は梅干とご飯だけを食べた。
母親の優しさは、こんな静かな形でやってくる……。いつもそうだ。怒っていても、必ず見方になってくれる。でも今は、この優しさが嬉しいけれど、余計に心が痛む。
夕食が終わり、デザートにケーキを食べた。話すなら今だ。鈴那は意を決して口を開いた。
「あの……お父さん。話があるんだけど」
「なんだ? あらたまって」
父が鈴那の顔を見た、母は黙ってお茶の入ったマグカップを見つめている。
「あのね……お父さん」
心臓がこれでもかと大きな音を立てる。
「実は私……妊娠しているの……」
父の表情が固まった。
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