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 冷静に話をしたかったけれど、できなかった。もう話をするのは無理なのだろうか。すぐに認めてもらおうとは思っていない。でも、なるべく早く認めてもらいたい。この気持ちを理解してほしい。今この瞬間にも、赤ちゃんは成長しているのだから。 「今日は泊まっていくの?」 「ううん、明日仕事だから帰る」 「そう……」  最終バスの時間まで、あと二時間ほどしかない。その間に、自分の気持ちの全てを両親に伝えたい。 「おかあさん……ごめんなさい。私反対されても産むから」  気持ちを言葉にするのは本当に難しい。自分の語彙の少なさに情けなくなる。 「それはお父さんに伝えなさい」  鈴那は俯いていた顔を上げて、母を見た。 「あなたは昔からそうだったわ。どうせ反対しても、気持ちは曲げないんでしょ?はっきり言って、なんて娘だって思うけど、お腹の子を思う気持ちは母親だからわかるわ。でも、あなたが思っていいる以上に大変だからね。産む前も、産んだあとも」  母はマグカップを見つめながら淡々と話す。 「覚悟はちゃんとしてるから」といった鈴那に、母は「そう」とだけ言って頷いた。  母は否定も肯定もしなかった。それでも、その表情からは子供をもつ母親の優しさが滲んでいるようにみえた。  まだ何も変わりのないお腹。自分の中に生きている命を鈴那は守りたいと思った。 「お父さんを説得するのは難しいわよ」  母の言葉に鈴那は目を丸くした。 「へっ? じゃあ、お母さん……」 「怒ってないわけじゃない。とんでもない娘だって思っているけど、あなたが心配だから。あなたがお腹の子を思うように、お母さんもあなたのことをおもってるのよ」  それを聞いて、鈴那の目から涙が溢れた。無償の愛情というのは、こういうことなのかもしれない。 「泣かない泣かない。怒ってるし、呆れてるし、最低だと思っていることも忘れないでよ」 そのすべての言葉に愛情が感じられた。
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