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それからどれくらい泣いていたのだろうか。気持ちが落ち着いた頃には、最終バスの時間が迫っていた。ギリギリまで粘ったものの、結局父とは顔を合わせることも、話をすることもできなかった。
「身体に気をつけてね」と、言ってくれた母に見送られバスに乗る。
動き出したバスに向かって、いつまでも手を振る母に、鈴那の胸に熱いものが込み上げてきた。そして車窓の外を流れていく懐かしい風景は霞んでいた。
バスを降りてアパートへと向かう。時刻は十時、人通りも少なくなっていた。
アパートの前に見覚えのある車がとまっていた。鈴那が車の近くまで行くと、運転席のドアが開き、桐島が降りてきた。
「どこいってたんだ?電話にも出ないで。心配したぞ」
桐島は少し怒っているようだ。
「ごめんなさい。電話に気がつかなくって……。ちょっと実家に行ってたんです」
「実家は近くなのか? 身体の調子は?」
どれくらい前からいたのだろうか。鈴那はそれが気になった。
「体調はいいです。実家はバスで一本です」
それを聞いた桐島は当たり前のように鈴那の家にあがり、買ってきたプリンなどを冷蔵庫にしまった。その間に鈴那は二人分のコーヒーを淹れた。
「体調がいいみたいで安心したよ。明日、会社はどうする? まだ無理そうならやすんでいいぞ」
「大丈夫です。明日は出ます。コーヒーを淹れたので飲んでください」
鈴那はコーヒーをテーブルに置いて携帯を確認した。桐島からの着信が三件と、メールが一通。時刻はどれも八時を少し過ぎた時間だった。ということは、外で二時間近くも待っていたということだ。」
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