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荷物は桐島が運んでくれた。帰宅途中の車内はとても静かで、優しいオルゴールの音色が流れていた。家についた頃には疲れが出たのかお腹が張ってきたので、鈴那は少し横になることにした。すると、桐島が何も言わずにキッチンに立ちご飯を作り始めた。さすがにここまでされると、勘違いしてしまいそうだ。
「桐島さん。ご飯は自分で作るから大丈夫ですよ」
「いいから桐生は休んでろ。その代わり、俺もここで食べて帰るからな」
そう言って鈴那に笑顔を向けると、桐島は料理を作り始めた。
その姿を見て、鈴那は今胸に秘めているこの想いを伝えたいという衝動に駆られた。
このままでは前に進めない気がする。桐島が受け入れてくれなくても、せめてこの気持ちだけでも聞いて欲しい。でも……それを言ってしまうと、この関係が終わってしまうかもしれない。ベットに横になりながら、鈴那はそんな葛藤を繰り返した。
キッチンの桐島から視線を外し、鈴那は天井を眺める。そもそも、この関係はなんなのだろう。自分が一方的に想いを寄せているだけで、桐島にとってはあの人の代わりに過ぎない。この優しさは自分に向けられているものではないのだ。そう思うと、伝えたい気持ちが急速に萎えていった。
もう考えるのはよそう。そう思ってベッドから起き上がると、「お腹は大丈夫か? ご飯できたけど、どうする?」桐島が聞いてきた。
鈴那は無理矢理笑顔を浮かべ、「食べます」と答えた。
桐島と囲む食卓は静かで、会話もなく二人は食べ続けた。桐島が先に食べ終わり、食器をもって立ち上がった。
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