終章

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「そろそろだな」 「はい」  お腹の中で鼓動する命をこの手に抱くのを待ちわびながら、二人は笑顔だった。 それから一週間後。そのひは生憎の雨だった。鈴那は窓の外を見ながら、あの日のことを思い出していた。  あの雨の日……。あの日から全てが始まった。加藤に振られて雨に濡れ、そして桐島に出会った。泥水をかけられてことを、今でも鮮明に覚えている。  もしもあの日、雨が降っていなかったら、桐島と出会うことはなかったのかもしれない。  もしもあの時、桐島に出会っていなければ、こんな幸せは訪れなかったかもしれない。  もしもこの子を授からなかったら……。  そう……すべてがあの日から始まった。ガラスの向こう側は、あの日に似ている。  雨は憂鬱だと思っていたけれど、キセキを運んできてくれた。  あなたと出会えたのはキセキ。この子と出会えたのもキセキ。そのキセキが重なって、この場所にたどり着いた。鈴那はそう思いながら、窓から雨空を見上げていた。
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