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「随分と余裕だな、人間」
特徴的な長い耳に深緑の髪が多い中で、一人だけ黒髪の男がそう言った。
ジグルトは不思議そうに首をかしげ、
「焦る理由がねーし」
「『不可侵条約』を破った以上、辿るのは死が妥当なのにか?」
どいつもこいつも外見だけは若いが実は数百年生きたジジィババァ……のはずなのだが、どうやら馬鹿ばっかのようだ。
「くっだらねー。お前らは迷子をぶっ殺して悦ぶ変態か? そりゃ転移しくって独立地域に立ち入ったのは悪かったよ。謝罪なら腐るほどするし、詫びとして労働くれーなら嬉々としてやってやるが」
そこで一度口を閉ざし。
ガクブルなアリナの制止の声を無視して。
ふてぶてしい笑みを浮かべたジグルトは突き刺すように言う。
「なんつーかその気も失せたわ。別に殺り合うってんなら、今すぐでもいいぜ」
どうせ殺し合いが回避できないなら今いる奴等の中じゃトップっぽいこいつから殺してやるための安い挑発なのだが、どうやらうまくいったようだ。
明確な『殺意』を纏いだした黒髪のエルフが周囲を制止までしてくれて、その手に持った剣を振り上げた。
「下等種族が。今すぐその生意気な口を閉ざさせてやるッ!!」
「そうかい。そりゃーご苦労なこって」
もちろん、ジグルトは理由もなく挑発したわけではない。
代表して喋っていたコイツを一番に殺せば、いくらか取り乱してくれるだろうという打算があったのだ。
予想より短気で助かった。
しかもサシの喧嘩の調整までしてくれるとは。
お礼にお前の最大魔法で殺してやろう。
視界に収まる中では最強だったことを嘆きながら死ぬがいい。
「死ね」
お前がな、とそこまで考えたところで。
予想外のことが起こった。
「ほう? 吾を放って━━━」
「やめてぇええええええ!!」
どこか高貴で威圧感が籠った声がアリナの絶叫でかき消された。
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