第一章 傭兵の野望

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5 なんとかエルフ族と殺し合わずに済んだジグルトたちは『ヨルムンガンド』近くのボロっちい宿で一晩を過ごした。 ここしか空いていなかったとはいえ、一部屋しか借りれなかったので、アリナがベッドでジグルトが床だ。 傭兵なんて物騒な経験が豊富だからか、床でも普通に爆睡していたジグルトはガチャリと扉を開く音で目覚めた。 馬鹿正直に反応したりはしない。 侵入者が何者かは知らないが、最悪視界に収めれば勝てる━━━とはいえ、できれば殺しまでいくのは何かと都合が悪い。 仕事以外の殺しは後始末が大変なので。 だから、ここはできるだけ引き付けてから、奇襲気取りの馬鹿を気絶させるのが一番だろう。 仰向けで寝ていたので、侵入者を捉えきれないということもないだろう。 (ったく。明日は受験っつーのにどうしてトラブルが舞い込んでくるんだか) 一歩、二歩、二歩半。 完全に足音を消すこともできないようで、接近したことを全力でアピールしてくれた。 (くたばれ、三下) ピリッと肌が粟立った。 大規模魔法の前兆を感じ取ったジグルトは瞼を開き、隙だらけの侵入者の顎へ蹴りを叩き込む。 「ごッ…………!!」 顔を白の布で隠されていたが、ちらっと見えた耳は普通だったことを鑑みると、 「んだよ。エルフじゃねーのか」 予想が外れたなーと呟きながらも疾風のような拳は的確に侵入者の鳩尾を強打。 開け放たれた扉を越え、廊下に転がり、侵入者を『上回った』ジグルトが魔法を放つ。 「サンダー!!」 敵は雷系統の魔法が得意なようで、初級魔法でも結構な威力があった。 バヂィ!! と予想以上に大きな雷鳴が轟き、侵入者の体を黄金の一撃が貫く。 脳を揺さぶられ、鳩尾を強打された状態では魔法を具現する集中力も維持できなかったのか、雷をまともに食らった侵入者がビクッと痙攣し脱力するかのように動きを止める。 顔の布は口に当たる部分が黒の三日月と趣味の悪いもので、全身白で統一された、ヘンテコな奴の無力化には成功した。 暗殺にしては目立つ格好だし、ファッションということもないだろうし、そもそも襲われた理由も不明なのだが。
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