第一章 傭兵の野望

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「チッ。なんなんだよ、この真っ白野郎は」 疲れたように吐き捨てるジグルトに半ば重ねるように、背後から呑気な声が聞こえてきた。 「ぅ……ふぁ……うるさい……」 どうやらあれだけ騒いでもアリナは飛び起きもしないようで、寝返りをうって寝息をたて始めていた。 周囲が何事かと騒ぎ始めているというのに。 (大物なのか間抜けなのか天然なのか。うん、馬鹿なだけか) しばし唸り、面倒な弁解を回避するためにアリナを背負って窓から飛び出す。 一連の動作は流れるように素早かった。 このようなことには馴れていると示すように。 二階からの飛び降りなので、軽く膝を曲げ、衝撃を逃がせば大したダメージを受けずに済んだ。 できれば白の侵入者から話を聞きたかったのだが、受験前に余計なトラブルを広めるのは得策ではないだろう。 ただでさえ『全盛期の魔法使いを獲得するための』学園に入学しようとしているのだ。 下手に問題ありだと世間に広めたって得になることはないだろう。 「おら起きろ。そんで自分で走れ」 「ヴぁー……うるさーい……」 「チッ。めんどくせー」 ジグルトは着替えなんか持ってきてなかったからマント姿だし、アリナはネグリジェだが、彼女の場合『収納』の魔法で荷物は全部しまっているようだから、忘れ物はない……、 「やべっ。刀忘れてた」 ポケットに火薬などは突っ込んでいたのだが、刀はすぐそばに置きっぱなしだったはずだ。 無力化が目的だったため、使う機会がなく、完全に失念していた。 「ま、古くさい遺跡で拾ったもんだし、別にいっか」 気が向いたら取りに戻るくらいの気持ちでいいだろう。
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