第一章 傭兵の野望

16/32
前へ
/50ページ
次へ
その時。 全身真っ白の侵入者は意識を取り戻し、心配そうに接してくる人々を軽くいなしていた。 正直、鬱陶しかったのだが、だからといって排除するほど世間知らずではない……と一人頷く。 白の侵入者━━━意外にも女の声だった━━━はなんとか場を納め、標的が泊まっていた部屋に入る。 (標的ロスト。奇襲の有効性はなしと判断。手段を変更。『戦争』にて目的を遂行する) そうと決まれば今は力を蓄えることに専念すべきだろう。 軽度とはいえ、火傷も負っていることだし。 (標的の性質上、アタシを殺すことも可能だったはず。少なくともアタシのスペックならひと一人殺すなど簡単なはず。なぜ、生かした?) 自分から情報を引き出すつもりだったのか、それとも敵を殺せないほどの世間知らずなのか。 どちらにしても女がやることは変わらない。 『主』の命令に従い、『桂馬』が『金銀』にランクアップすることを阻止する。 そのためなら『強者』たるジグルト=ファインダーだろうが上回ってみせる。 「…………?」 ゴツリ、と。 女の足に何か固いものがぶつかった。 視線を下に向けると、そこには量産品らしき刀があった。 (標的の忘れ物か……) 作戦の役に立つものではないだろう。 そもそも必ず『強者』になれる標的に『強力な武器』を所持する理由はない。 相対するだけで敵より強くなれるのに、それ以上強くなる必要なんかないのだから。 「…………、」 とはいえ。 忘れ物に気づいて放っておくのは世間知らずのやることだ……とどこかズレたことを思った女は刀を拾い上げていた。 この後どうするか。 常識人を自称する女は当然のように動き出す。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加