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「がッ、ご、ばっ…………!!」
逃げることに夢中だったアリナはろくに防御もせずに熱波を受けてしまった。
何度も何度もバウンドするたびに切れ切れの悲鳴が溢れる。
大木に激突し、動きを止めたのは、五〇メートル以上離れた地点だった。
背中は重度の火傷で爛れていた。
全身はヤスリをかけたように擦り切れていた。
「ぁ…………ごぶっ!!」
口から血の塊が吐き出される。
霞む視界はゆっくりと歩み寄る異形を映していた。
激しい耳なりに襲われていた耳は、ジュウジュウと地面が融解する音を捉えていた。
命懸けの鬼ごっこが終わる。
一人の少女の人生の終焉が訪れる。
(死にたく、なかったなあ)
最後の最期に。
少女が胸中には過去形の願望が沸き上がっていた。
まるでその願望を消し去るかのように超高温の触手の一本が鞭のように振るわれた。
それがアリナが見た最後の光景。
明確な死が訪れる前兆。
そうなるはずだった。
それで終わるはずだった。
だが。
「邪魔だ弱者」
最初、アリナは何が起こったのか理解できなかった。
すべてが終わってから、パチパチと瞬きをする。
切り裂かれていた。
極太で高温の触手が縦にすっぱりと。
いや。
いいや。
それだけではなかった。
まるで地割れのように中心の球体も呆気なく切り裂かれ、左右に倒れていたのだ。
死体が煙を上げていた。
すでに第二級警告種は死体と化していた。
瞬殺。
街だろうが問答無用で滅ぼす怪物を一撃で殺すような実力者がこの世に存在するなど、この目で見ても未だに信じられなかった。
「あっちー。ったくよー死んだ後も迷惑かけんじゃねーよ」
黒髪の男がいた。
右手に黒い刀、左手に酒瓶を持った、人相の悪い男はゴクゴクと酒を飲みながらアリナのほうへ振り向いていた。
彼はあっけらかんとした調子で、
「よっ。生きてるかお嬢ちゃん?」
そう声をかけられたときにはアリナの意識は途絶していた。
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