第一章 傭兵の野望

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1 腰に刀を差し、酒瓶片手に魔法大国アトランフィーナの首都の裏路地をプラプラと歩く男がいた。 彼の名はジグルト=ファインダー。 根無し草の傭兵である。 ボサボサの黒髪に薄汚れたマント、全体的に黒で統一されたジグルトの漆黒の瞳は心配そうに揺れていた。 本人に指摘すれば全力の否定があったろうが。 「ったく。つまんねーもん見せてんじゃねーっつーの」 彼が言う『つまんねーもん』とは第二級警告種が少女を殺そうとしたことだ。 何とか最悪の事態になる前に助け出せたからよかったが、あと少し遅ければ彼女は肉片も残さず消滅していたはずだ。 (首都行きの転移切符しか持ってなかったから一緒に転移してから病院に連れて行ったが……助かる、よな?) 相手が敵なら女子供だろうが容赦なく排除するのが傭兵だ。 彼だって命を狙われれば反撃するが、だからといって人の生死に無頓着になっていいわけではない……というのが彼の持論だ。 他の傭兵には甘いと言われているが。 お陰で(彼の能力と合わせて)嘲笑の意味も込めて『英雄』なんて呼ばれていたりする。 「あの野郎、助けられなかったらブッ潰してやる」 こうして仕事以外でも積極的に戦闘を繰り返すから、治安を司る連中やギルドといった『力で金や権威を獲得している組織』に疎まれてしまうのだが、ジグルトは生き方を変えるつもりはないようだ。 そもそも彼は傭兵なんてその場しのぎの立場で満足などしていない。 『軍事的学園』。 魔法という未成年で全盛期を迎える力を効率的に集める機関への入学。 それが果たせれば、人生薔薇色間違いなしの『メリット』を獲得できるのだ。 ジグルトが首都に来たのは最大最強の軍事的学園・『アマテラス』の受験戦争に参加するためだ。 これは人生の転機だ。 競争相手は魔法を振るう化け物集団。 普通なら『魔法を使えない』ジグルトに勝ち目などないはずだが、彼は勝利を確信していた。 相手が神だろうが悪魔だろうが。 ジグルト=ファインダーは必ず『強者』に君臨してしまうのだから。
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