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(『英雄体質』か。ま、こいつのお陰で一六歳のガキが今まで死なずに済んだんだが、ぶっちゃけ不気味だよなあ)
視界に収まる範囲の生物よりも『強く』なれる体質。
分かりやすく言えばステータスが相手の一二〇パーセントに変更されるといったところか。
攻撃力や防御力だけでなく、魔法などといった特殊能力までも『上回った』状態で取得できるのだから、負けるほうがおかしいのだ。
あくまで『体質』なので、視界に入った者の内、一番強い者の力を自動的に取得するので、集団戦では選り好みできないのが唯一の欠点か。
『絶対に強者として君臨してしまう』ジグルトは酒瓶に口をつけ、そこで中身がなくなっていることに気づいた。
「チッ。麦茶…………じゃねえや。酒が切れちまった」
酒瓶をそこらに放り捨て、ジグルトは一つ息を吐く。
さて、明日の入試の準備でもするかーと呟いたところで、脳裏にヤブ医者の声が響いた。
ズタボロの少女を預けた病院唯一の変態女医の甘ったるい声が。
『はぁい、ジグルトちゃーん。おんにゃのこがお目覚めっすよー』
「フランディーレか」
『そうですよー。天下の名医フランディーレ=スコライバッハちゃんですよー』
「医師免許も持たない野郎が偉そうに」
『大事なのは腕っすよー』
「そうかい。そんなに腕が大事なら、スラムの片隅のオンボロ家屋で営業しねーだろうに」
『いやいやー。フランディーレちゃんも国家権力は怖いんすよー』
「へいへい。で?」
『はいはい、おんにゃのこの状態ですね。心配しなくても傷一つにゃいっすよー』
預けてから一時間も経っていないのだが、もう完治させたようだ。
普通の医師なら匙を投げるし、魔法医師でも治すのに短くても数週間はかかるはずなのだが。
天才とはこういう者を言うのだろう。
ジグルトにとっては少女が死んでいないのであれば、天才だろうがヤブ医者だろうが、どちらでもいいのだが。
(何度か怪我人連れて行ったが、死んでなきゃ助けてたっけな)
ジグルトは適当な調子で、
「相変わらずだな、ヤブ医者」
「辛辣っすねー、傭兵」
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