第一章 傭兵の野望

4/32
前へ
/50ページ
次へ
2 裏路地の片隅、首都の北西部に位置するスラム街は基本的に雨風が凌げればいいといったテントがポツンポツンと乱立していた。 謎の液体やボロ布を踏みながら、ジグルトはオンボロ家屋の前で嫌そうに眉をひそめていた。 扉の前に金髪碧眼の女がいた。 というか、フランディーレだった。 「なんだよ?」 「あの子はどこでナンパしてきたんすか?」 「ナンパって…………アイツは暇潰しに薬草採取してた時に襲われてるのを偶然見つけただけだっつーの」 「ふぅん。まっ、どうでもいいですけどっ?」 「なんで不機嫌なんだか」 なぜか頬を膨らませているフランディーレを無視して、ジグルトはオンボロ家屋━━━病院の中に足を踏み入れた。 ベッドが三つに机が一つ。 あとは薬品などが詰められた棚とスラム街では比較的豊かな内装だった。 普通ならゴロツキに根こそぎ奪われるのがオチのはずだが、争った痕跡すらないのは、ここの連中がフランディーレを恐れているからか。 「よっ。無事なようでなによりだ」 汚れが目立つベッドの一つに寝ていた銀と蒼の髪の少女が身を起こすところだった。 ゾッとするほど鮮やかな朱の瞳がジグルトをじっと見つめる。 巫女服なぞ初めてみたぞ。 「貴方は、あの時の…………」 「ジグルト=ファインダー。傭兵だ。お嬢ちゃんは?」 「アリナ=スコール。『天上の嵐』のギルド員です」 「へぇ」 年齢はジグルトとそう変わらないはずなのだが…………大陸でも五本の指に入るほどのギルド、それも『数』ではなく『質』を求める『天上の嵐』に所属できるほどの実力があるのに、軍事的学園に入っていないとは。 「珍しいな。アンタは軍事的学園を目指してないのか?」 「その、親が『天上の嵐』のギルドマスターなので」 「なるほど。軍事的学園は国家権力の一角だしな。私営のギルドとは仲が良くなかったっけ」 「『メリット』は魅力的ですけど、最悪戦争にさえ駆り出される軍事的学園は親のことがなくても入ろうとは思わなかったですけど」 「ふぅん。その辺は傭兵にゃ分かんねえ感覚だな」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加