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ジグルトは適当なベッドに座り、
「ああ、そうだ。あの怪我じゃ死にそうだったからムカつくほど腕がいいフランディーレのとこまで転移しちまったんだよ。首都と大陸北部のバーニヤじゃ結構距離あるから、転移切符にしても馬車にしても無駄金使わせちまうな」
転移切符は主要都市の『駅』に売っているもので、範囲内なら指定した座標に瞬間移動できる優れものだ。
その分、金はかかるのだが。
「いえ。助けて貰ったのに、お金のことで文句なんて言いません」
アリナはぺこりと頭を下げる。
いつの間にか隣に立っていたフランディーレがあっけらかんと『これは貸しっすからね~。「天上の嵐」ギルドマスターの一人娘と繋がり持てるなんてラッキー』とか言っていたので、ジグルトは飽きれ顔で肘でつつく。
「まぁいいや。じゃ俺はもう行くわ。明日は『アマテラス』の一次試験だからもう逢うことはねーかもな」
「あ、あのっ」
黒の巫女服と変わった格好のアリナは焦ったように手を伸ばし、ジグルトのマントの端を掴んでいた。
「? どうした」
「お礼っ、助けてくれたお礼を!」
「気にすんな。ありゃ癖みたいなもんだし。こーゆーとこも『英雄』なんて呼ばれる要因なのかね」
「?」
「気にすんな」
怪訝そうな顔のアリナの手を優しく外し、オンボロ家屋の外へ歩き出す。
頭の中ではすでに入試のことで一杯のジグルトへ、アリナは懇願するような声をかけた。
「あのっ」
「んー?」
「ならギルドに入りませんかっ。ジグルトさんほどの実力者なら即エース確定ですよ!」
「おー。ジグルトちゃんがスカウト受けてるー。ずるいっすよー! フランディーレちゃんも助手が欲しいー欲しいー」
「まとまりつくなヤブ医者」
抱きついてきたフランディーレを引き剥がし、ジグルトは改めてアリナへ向き直る。
「悪いな。ギルドはねーわ。つーか数日後には軍事的学園生なんでね。そんじゃあ」
ビシッと手を上げ、ジグルトはそう終わらせた。
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