【暴走Ⅲ その参】

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『ただ事じゃ無いと思った親父はすぐに家の中に駆け込んだらしい。そしたら、そこに立っていたのはまだ十代の矢部だったんだ。矢部の周りには組員が数人倒れていて、その目の前には実の父親と母親が血まみれで倒れてた。矢部の手には拳銃。呆然と立ち尽くしていた矢部は駆け込んだ親父に気付いた途端、自分の頭に拳銃を突き付けた。親父は素早く止めた。暴れて弾を弾くのも気にせずにな。腕に一発は入ったみたいだけどな。それでも止めた。そして、親父は矢部に言ったんだ。 《何があったかは知らねぇ。だけどな。お前が罪を犯した事に変わりはねぇ。それを死んで済ませるなんて事は男のする事じゃねぇ。生きて償え。お前が生きて償ったら、俺がお前を一から育ててやる。極道が嫌なら逃げればいい。だけどな。俺はその極道として守るもんもある。極道として誇りに思う事もある。きっと、お前もそう思える時が絶対来る。だから、お前の命を俺に預けてくれねぇか。》 矢部は自首して長い間刑務所で罪を償った。そして、刑務所を出でから親父に西極組に入れて下さい。と頭を下げたんだ。』 「……あの…皆、殺しちゃったの?」 『いや。親だけだ。他の組員達は急所を外していたようだな。だけど、親に関しては一発で決めてた。相当恨んでたみてぇだな。だけど、親を手にかけた事は正当防衛で済んだ。他の組員達に対する傷害で捕まったんだよ。あいつの父親な。あいつにヤクを打とうとしたんだ。母親も一緒になってな。それで暴れたら父親があいつに向かって拳銃を突き付けた。揉み合いになって、拳銃を取り上げた矢部が勢いで親を撃ったって訳だ。組員達は撃たれて逃げ出そうとしたところに倒れ込んだらしい。組は潰された。 だから、あいつにとっての家はここしか無いんだよ。』 「…矢部さんは…ちゃんと罪を償ったんだよね。西極組に来て良かったんだよね。」 衝撃的な矢部さんの過去。 全然知らなかった。 矢部さんのしてしまった事は非道かもしれない。 だけど、親の羞恥を身体を張ってまで止めた。 そして、刑務所で罪を償った。 矢部さんは強い。 『あぁ。一緒に呑んだ時に言っていた。西極組に来て良かった。親父に出逢えて良かった。命を預けて良かったってな。』
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